有馬記念と言えば 3歳馬から古馬までその年の活躍馬がファン投票と賞金ランク
によって選出され一堂に会す、一年を締めくくるドリームレース
ダービーとも違う、天皇賞とも違う
ファンにとっても関係者にとっても特別な存在
また、名馬達の引退レースに選ばれることも多く、これまで幾多のドラマが繰り広げられてきました
1977 3強対決 中山の直線を流星が駆け抜けた テンポイント
1985 世界のルドルフが日本のミホシンザンを突き放した シンボリルドルフ
1990 引退レースを見事飾った ”スーパーホース” オグリキャップ
1993 一年のブランクを経て ”奇跡の復活” を遂げた トウカイテイオー
いずれのレースも それだけで一本の記事が書けそうなくらい
細かくレース展開が頭に入っているとても印象的なレースでした。
しかし あのレースは特別
何か凄いものを見た・・・としばらく放心状態に陥るほど
わずか2分半の中に凝縮したドラマを感じたのは そう あのレース
その年 あの日まで7戦7勝4つのGⅠを制していた
覇王ことテイエムオペラオー
競馬に絶対は無い
でもこれまでに倒したきた相手ばかり
負ける姿を想像することが難しい
逃げ宣言のホットシークレットがスタートの出が悪く
逃げるつもりじゃなかったジョービッグバンが押し出されるようにハナに立つ
当然レースはスローペースに
こうなると先行馬有利で ある程度前で競馬しないと差し切れない
しかも中山競馬場の直線は310mと府中や淀などと比べて明らかに短い
そう追い込みが決まりにくい競馬場
覇王は他馬とぶつかるなどして位置取りに苦しみ後方3番手
レースは先行馬数頭が引っ張るも馬順の入れ替わりが少なく淡々とした流れ
そして中団には覇王封じを虎視眈々と狙うメイショウの2頭
メイショウオウドウとメイショウドトウが覇王の前に立ちふさがる
内には前年4着の強豪ツルマルツヨシ、そして古豪ステイゴールド
彼らは自らが勝とうとは思っていない
ただ これ以上ヤツには勝たせたくない
ヒールになっても構わない 1年間の怨念をグルになって晴らすかのように
覇王の行く手を阻んだ
そうこうしているうちに早くも3コーナーから4コーナーへの勝負所
テイエムはまだ後方
アドマイヤボスがまだ左側に蓋をしていて外に出すことが出来ない
悲願のテイエムつぶしに燃えるメイショウ2頭は追い出しにかかる
直線を向いてもまだ後ろから数えた方が早い位置
馬群の中で姿を捉えるのが難しいくらいの絶望的な状況に見えた
さすがにこの位置では・・・ 私も絶望しかかっていた
フジテレビ 堺正幸アナウンサーの実況は絶叫に変わる
”テイエムは来ないのか!”
しかし各馬が追い出しにかかったところで少し馬群がばらけた
後に騎手の和田竜二は語った
”道は見えていた”
テレビで解説していた東調教師は
”外へ回してたら厳しかった” と
新馬デビューからずっと手綱をとってきた和田はオペラオーの勝負根性を信じ
馬群に突っ込んでいった。
そんな和田を安心させるようにオペラオーは一完歩ずつ馬群をこじ開けた
堺アナウンサーは かの有名な
そして外から追いすがる歴戦のライバル メイショウドトウをハナ差抑えて
ゴールを駆け抜けた
勝ち時計 2:34.1 決して速いタイムではない
一般的にスローペースな場合は先行馬もまだ余力があり、豪快な追い込みは決まらない
そして、残りの騎手みんなで計画していたかのような包囲網 テイエムいじめ
この展開、この位置取りでは普通に考えたら勝つのは奇跡に近い
竹園オーナーは言った
”馬も騎手も涙が出るほど可哀想でした”
でも和田は絶望していなかった
覇王はやはり強かった
和田と2人で包囲網を切り裂いた
2人の信頼関係こそが勝利に繋がったのだろう
私はテレビの向こうで起こったわずか2分半のドラマを
消化するのに時間がかかった
しばらく呆然とし
何度かレースを振り返りながら段々と余韻から覚めていった
あれから21年
最近のファンにも是非知って欲しい
20世紀最後の最後に生まれた名レース
そして どんな時も全力を尽くすことをやめなかった世紀末覇王こと
※レース動画(カンテレ公式より)
https://www.youtube.com/watch?v=k597ABpQhF0